蕎麦は食べ物ですから、「おいしさ」が大切です。
しかし、蕎麦のおいしさは、極めて失われやすいものなのです。
まず、畑で栽培した段階で、おいしい蕎麦と、そこそこの蕎麦に分かれてしまいます。
どこの産地で、どのような意識を持った生産者が、どういう育て方をしたのか。栽培品種は何か。播種時期と収穫時期はいつなのか。畑の土の状態は、どのようなものなのか。畑の地形、日当たりの状態、水はけの良し悪し。肥料はどうしているのかなど。これらの要素を適切に管理できているか否かによって、収穫されたソバには、天と地ほどの違いが出るのです。
仮に畑で最高においしい蕎麦ができたとしても、収穫後の乾燥、調製の段階で、その方法が適切でないと味が落ちてしまいます。
さらに保存の状態が悪くても、風味が失われます。
製粉の工程は最大の難関で、この段階で味や香りが損なわれる事例が、とても多いのです。
そして製粉された蕎麦粉を打って「蕎麦切り」に仕上げる工程でも、味は大きく変わります。
加水の方法や加水率、生地に圧力をかける程度とタイミング。一本棒で打つのか、三本棒の打ち方なのか。これらの要素しだいで蕎麦は、おいしくも、まずくもなります。
蕎麦は、おいしさを引き出すことが非常に難しい食べ物なのです。
蕎麦鑑定士は、1級に認定されるまでに、48種類の蕎麦の味を覚えます。
味見する蕎麦は、日本で手にはいる最高の材料を使い、一年中で蕎麦が最もおいしくなる旬のタイミングで、最高の技術を駆使して打った蕎麦です。
48種類の蕎麦を体験して、その味を舌に染み込ませた蕎麦鑑定士の上級者は、「最高のおいしさ」が、どういうものであるのかを知っています。それを基準点として、おいしさを測る正確な「ものさし」が、彼の体の中に出来上がるのです。
この「ものさし」を使って、今、食べた蕎麦が、どのくらいのレベルのもので、何が足りなくて、どこがすばらしいのかを、正確に判定できるのが蕎麦鑑定士です。
これが蕎麦を「鑑定」するということなのです。